
走ることに、 慣れてしまったぼくがいます。
1kmを4分で刻むことが 時計の針のように正確になって、 いつのまにか 「苦しさの向こう側」に 住み着いてしまった。
でも 練習会で必死に10kmを走る仲間の背中を見ていると、 なんだか、 忘れかけていた「大切なもの」を 突きつけられるような気がするんです。

「必死」は、ちょっと可笑しくて、尊い。
この前、ラン仲間の「田中さん(仮名)」が10kmのタイムトライアルに挑んでいました。目標は、悲願の「60分切り」。
目標を後押しすべく私はペースメイクすることに。
走り出す前の彼は、「いやあ、今日は楽しみながら走りますよ」なんて余裕ぶっていたのに、5kmを過ぎたあたりから、顔が「梅干しを10個一気に食べた人」みたいになっていく。
残り2km。 フォームはもうバラバラ。 腕を振るというより、空中の見えない敵を殴っているような格好です。 「ふしゅー、ふしゅー」という、壊れかけの加湿器みたいな呼吸音。
上級者のぼくから見れば、「もっと肩の力を抜けばいいのに」なんて思う。 でも、その「格好悪さ」の中に、人生の、いちばん純度の高い情熱が溢れ出しているのが見えたんです。
「数字」を味方につける、ちょっとした秘策。
田中さんが目指した「60分」や、その先の「50分」。 それらは高い壁に見えるけれど、実は「攻略法」という、ちょっとした近道があるんです。 ぼくが仲間にこっそり教える、「もがきを喜びに変える練習帳」を広げてみますね。
- 「1kmを6分」の体をつくる(目標:60分) いきなり10kmを走ろうとしないでいいんです。 まずは**「1kmを6分で走って、1分休む」を5回繰り返す。 これだけで、体は「あ、このリズムね」と覚えてくれます。 だんだん休憩を短くしていけば、気づいたときには10kmの向こう側にいます。
- 「5分」の壁を壊す(目標:50分) ここからは、少しだけ心臓に汗をかいてもらいます。 「1kmを4分50秒で3本」。間にはゆっくり歩く時間を。 本番よりちょっと速い刺激を入れると、本番の5分ペースが「あら不思議、なんだかゆっくり感じるわ」という魔法にかかるんです。
- 週に一度の「長い、長い、お散歩」 タイムなんて気にせず、90分くらいダラダラと動き続ける日を作る。 足の裏に、地面の感触を染み込ませる。 これが、後半の「もう足が動かないよ」という情けない自分を救ってくれる、一番の薬になります。
また、あしたも。
田中さんはゴール後、 「もう10kmなんて、一生走るかバカヤロー!」 と、地面にひっくり返って叫んでいました。けれど、、、スポーツドリンクを一口飲んで、 一息ついたあとの彼は、 「……来月なら、あと1分縮まるかな」 なんて、 さっきの絶望を忘れて 子供みたいに笑うんです。
人間って、なんて滑稽で、なんて愛おしいんでしょうか。 上級者も、初心者も。 10kmという「ちょうどいい冒険」の中で、 みんな、自分だけのドラマを書いています。
ぼくも、彼らの「必死」に負けないように。
あしたは、 タイムを計るのを少しお休みして、 ただ、地面を押していく感触を 「心地いいなあ」と感じながら、 走ってみようと思います。
あなたも、 どこかの道で、 自分をちょっと笑いながら、 進んでみませんか。










