走るのをやめて、「2万円分」の自由を歩いた話し。

少し暖かくなって、久しぶりに駅からの道のりを歩いていて、ふと思ったんですよね。

「歩く」って、僕たち人間が最初に覚えた自由だったはずなのに、いつの間にか「速く走る」ばかりを競うようになってしまったなぁ、なんて。

今日は、僕のランニング仲間である「しょうへい」さんのお話をさせてください。

しょうへいさんは、SHONAN RUNSのYokohama Night RUNSで出会ったランニング仲間です。登山、マラソン、トレラン好きで写真も撮る多趣味ランナーさん。

Youtubeも、いわゆるランニングインフルエンサー界隈のチャンネルとは違う角度からランニングを考えられるので面白い。

2万円のチケットと、裏切られた背骨

そんな彼、東京マラソン2026に出場したんです。

でもね、コンディションは最悪。1月にぎっくり腰、2月にはヘルニアと診断されてしまった 。1ヶ月の走行距離は、わずか3.6km 。普通なら、迷わず「棄権」の二文字が頭をよぎるはずです。

僕は「ヘルニア国物語」は厄介になると壮大なストーリーになってしまうので、無理は禁物と言ったんですけどね・・・

でも、彼はスタートラインに立ちました。 理由は、参加費の約2万円がもったいないから

そして、なかなか当たらないプラチナチケットだから 。 なんだか、すごく人間らしくて、僕はその理由が大好きだったりします。

「関門ファイター」という自意識の戦い

ここで少し、僕の中の「意地悪なランナー」が顔を出します。

今の時代、マラソンはただのスポーツじゃありません。SNSに「完走!」や「サブスリー!」という文字を載せるための、ある種の「承認の儀式」と思うことが多々あります。それも、たのしみ方の一つなのにね。

SNSなんてなかった時代から、陸上部あがりで泥臭く走ってきた自分の変なプライドが「意地悪なランナー」として顔を出す。

 でも、彼はそこで「ほぼ歩きで完走できるか」という、なんとも格好のつかない、でも切実な検証を始めたんです

東京マラソンには9つの「関門」という名の断頭台があります 1キロ9分ペースで歩かないと、即座にバスという名の「収容車」に回収されてしまう 彼は自分のことを「関門ファイター」と呼んでいました

ガーミンのスマートウォッチが示す距離と、実際のコースのズレに一喜一憂する姿 あと2分、あと1分で関門が閉まるという極限状態 背後に迫る「スイーパー(最後尾)」の影におびえながら、ひたすら早歩きを続ける

それは、キラキラしたランナーの姿というよりは、スマホの充電が残り2%で目的地を探す現代人のような、必死で、どこか滑稽で、でも痛烈にリアルな戦いでした。

景色を「拾う」ということ

面白いことに、歩き始めると、景色が変わるんです。 新宿のビル群 、日本橋の麒麟の像 、浅草の雷門 。 走っているときには風のように過ぎ去ってしまう街の表情を、彼は一歩ずつ、丁寧に拾い集めていきました。

途中で楽しみにしていた「東京ばなな」が品切れになっていたり 、トイレで5分のタイムロスをして絶望したり

そんな些細な出来事が、歩いている彼にとっては「事件」になる。 「道路のど真ん中を歩く感じがいいよね。マラソンじゃないと歩けないから」 彼が漏らしたその言葉に、僕はハッとさせられました。

検証の結果、見えたもの

結果は、ネットタイムで6時間27分49秒 平均ペース1キロ9分12秒 残り2分という瀬戸際で最終関門を突破し、彼は見事に完走しました

検証結果としては、「全部歩きだと、やっぱり厳しい」ということ でも、40kmを過ぎてからアドレナリンが出て、最後は少しだけ走れたみたい。腰の状態だけは心配なんですけど・・・

速さの向こう側にあるもの

僕たちは、つい「サブ3」とか「サブ4」とか、数字で人を測ろうとしてしまいます。

でも、しょうへいさんが今回見せてくれたのは、数字以前の、「今の自分にできる精一杯のたのしみ方」でした。

ヘルニアを抱え、痛みを騙し騙し、制限時間の影に怯えながらも、東京の街を楽しもうとする 。 それって、ものすごく強くて、あたたかな「戦い」だと思いませんか。

速く走れる人はすごいけれど、

ゆっくりしか進めないときに、その「ゆっくり」を味わい尽くせる人は、もっと素敵かもしれない。

ゴール後の彼の顔は、どんなエリートランナーよりも、晴れやかで、少しだけ寂しそうで、でも、とてもいい顔をしていました

なんだろう?ゆっくり走るランナーの後ろ姿や様々な国籍のランナー、東京の街並み、そんな風景をYoutubeを通して見ていたら、「東京マラソンは5時間くらいかけて楽しんでも良いかも」そんなキモチになった動画でした。

そこにはきっと、走っているときには見落としていた、東京の息づかいみたいなものが隠れているはずだから。

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