知らない街は、足で読む。

9月に入って、朝の空気がちょっとだけ変わったの、わかりますか。 半袖の腕に当たる風が、べたっとしたものから、するっとしたものに変わる、あの瞬間。

こういう季節になると、無性に「どこか遠く」へ行きたくなります。

旅の準備って、あれこれ悩むのもたのしいですよね。

着替えは何着いるかなとか、あの本を持っていこうかなとか。

ぼくの場合、いちばん最初に決めるのは「どの靴を持っていこうか」なんです。 といっても、おしゃれな革靴じゃなくて、すこし履き古したランニングシューズ。

昔はね、北海道から九州まで、いろんなところへ行きました。 でもそれは「旅」じゃなくて「遠征」や「合宿」だったんです。 タイムを削るために、限界まで身体を追い込むために行く。

だから、その街がどんな匂いがして、どんな人が暮らしているかなんて、見る余裕はちっともなかった。

いまはもう、そんなふうには走りません。

旅先で、朝、少しだけ早く起きてみる。 まだ観光客が誰も歩いていない、しずかな街。 そこを、ただ気の向くままに、ゆっくりと走るんです。

見知らぬ街の、朝の匂い。

どこかから漂ってくる、お出汁の匂いや、パンの焼ける匂い。 新聞配達のバイクの音。 ゴミ出しをしているおばあちゃんとすれ違って、「おはようございます」って軽く頭を下げる。

そういう、ガイドブックには絶対に載っていない「その街のふつうの朝」に、すっと溶け込める。 それが、旅先で走る「旅ラン」の、ほんとうの贅沢なんじゃないかなぁって思うんです。

走るといっても、頑張らなくていいんですよ。

疲れたら歩けばいいし、気になる喫茶店があったら、そこでモーニングを食べちゃえばいい。

足で地面を踏んで、風をいっぱいに吸い込むと、その街のことが、なんだか急に好きになるんです。

最近は、宿をさがすときから、もう旅ランがはじまっています。 「旅行予約サイト」の地図をながめながらね。

「あ、このホテルの近くには大きな公園があるな」とか、「川沿いにいい道が続いてそうだな」とか。 ついでに「大浴場」があるホテルだったら、もう最高です。 走って帰ってきて、そのまま大きなお風呂にざぶんと浸かる。

これ以上の朝のご褒美って、ちょっとないですからね。

そろそろ、シルバーウィークの連休。 どこか、行きたい街はありますか。

もしこれから旅の計画を立てるなら、宿の近くの「走れそうな道」も、ちょっとだけ探してみてください。

そして、荷物の隅に、ランニングシューズをぽんっと入れておく。

それだけで、いつもの旅行が、うんと深呼吸できる旅に変わると思いますよ。


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