地面というバットに、自分をぶつけにいく。

おはようございます。あるいは、お疲れ様です。 新緑が目に痛いほど鮮やかな季節になりました。カレンダーの数字が赤くなるたびに、僕たちは「何か有意義なことをしなくては」という、出所不明の義務感に背中を押されたりします。

最近、僕が主催しているランニングプログラムに、少しずつ、でも確実に新しい仲間が増えてきました。

参加してくれる方々に理由を尋ねると、驚くほど多くの方がこうおっしゃいます。「これまで走り方を教わったことが一度もなかったので、ちゃんと知りたくて」と。それは、どこか切実な響きを持っています。 」

思えば僕たちは、体育の時間、持久走という名の「苦行」において、呼吸法や腕振りについては耳にタコができるほど聞かされてきました。けれど、どうすれば楽に、遠くへ、自分という存在を運んでいけるのか。その「コツ」については、驚くほど放置されてきた気がします。

SNSで流れてくる、誰かの完璧なランニングログ。それを眺めながら感じる、言いようのない焦燥感や「自分の形が整っていない」という不安。そんな自意識を抱えてRUNSのプログラムの門を叩いてくれる人たちに、僕はいつも、一冊の古い本を開くように、ある「理屈」をお話ししています。

今日は、その話をここで、手紙を書くような気持ちでまとめておこうと思います。

野球というスポーツを、少しだけ想像してみてください。 バットがボールを捉える、あの静謐で、かつ暴力的な瞬間のことです。

実は、走るという動作の本質は、「地面という巨大なバット」に「自分の体というボール」をぶつけ、その反発で前へ飛んでいくプロセスの連続なのです。

「走る」というと、自分の筋肉をフル稼働させて地面を蹴り飛ばす、そんな能動的なイメージを持つかもしれません。でも、それは少し、自分を過信しすぎているのかもしれません。本当の主役は、僕たちの足元に黙って横たわっている地球です。

まず、「地面反力」という名の、地球からの誠実な返答について

野球でバットがボールを強く弾き返すように、足が地面を叩くと、地面から全く同じ強さの力が返ってきます。地球はあまりに巨大で、僕たちがどれだけ強く踏みつけてもびくともしません。だから、叩いたエネルギーは逃げることなく、100%自分に戻り、僕たちを前へと押し出す原動力になります。 これは、相手の言葉を遮らずに最後まで聞くことで、かえって深い対話が生まれる関係に似ています。

次に、僕たちの身体に備わった「腱のバネ」という、高反発なギフトについて

インパクトの瞬間にボールが歪んで復元するように、人間のアキレス腱も、着地の衝撃をエネルギーとして一時的に蓄え、一気に解放します。 筋肉という、燃費が悪くて疲れやすいエンジンだけに頼るのではなく、この「バネ」という魔法を使う。自意識で身体をコントロールしようとするのをやめて、身体がもともと持っている「弾みたがっている性質」を信じてあげる。すると、走ることは驚くほど効率的で、自由なものになります。

そして最後に、「芯を捉える」という、潔い作法について。

飛距離を出すには、バットの「芯」で捉える技術が欠かせません。 ランニングにおける芯とは、「体の真下に近い位置での接地」です。 前のめりになって焦ることも、過去を振り返って踵を引きずることもなく、今の自分の重心の真下で、静かに地面を捉える。全身を一本の硬い、それでいてしなやかな棒のように保つ。そうすることで、地球から受け取ったエネルギーをどこにも漏らすことなく、推進力へと変換できるのです。

結論を言えば、走るとは一歩ごとに「自分というボール」でセンター前ヒットを打ち続ける作業です。 力任せに地面を「蹴る」のではなく、いかに鋭く、清潔に「跳ね返るか」。

僕は、WALK RUNSでも、Yokohama Night RUNSでも、どのプログラムであっても、この「センター前ヒットの連続」というイメージを伝え続けています。

速く走って誰かに勝ちたい、というギラついた欲望よりも、ただ楽に、身体が自然と前に進んでいく心地よさを知ってほしい。それが、自分を丁寧に扱うことの第一歩だと思うからです。

ただ、こうして言葉を尽くしても、どうしても埋められない溝があります。 言葉は、どこまでいっても地図であって、目的地そのものではないからです。

「あ、今、地球が押してくれた」 「バネが勝手に自分を弾き飛ばしてくれた」

その、理屈が消えて感覚だけが残る瞬間。それは、実際にあなたの身体を動かし、風を切り、地面との対話を試みる中でしか掴めないものです。

だからこそ、僕は皆さんに、実際のプログラムに参加してほしいと願っています。 テキストを読んで納得する脳の快感もいいけれど、細胞が「あ、わかった」と呟く時の、あの震えるような納得感には及びません。

この「センター前ヒット」の感覚。 あなたの身体で、一度試してみませんか。

その時、あなたはきっと気づくはずです。 走ることは、自分を追い込む苦行ではなく、世界と仲直りするための、とても静かで幸福な手段なのだということに。

ぜひ、プログラムに参加してみてください。 あなたの「芯」を捉えるその音が聴けるのを、楽しみに待っています。

一歩、また一歩。 今日も、いいヒットを。


各プログラムの詳細は↓

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