まっすぐな、まわり道。

走るトレーニングで、いちばん大切なのは、 実は「ゆっくり走る」「ゆっくり動かす」ことだったりします。

心臓をバクバクさせて、 限界まで追い込む練習のほうが、 なんだか「やった感」はあるし、 すぐに強くなれそうな気がするけれど。

本当に強い、折れない土台をつくるには、 しゃべるくらいのペースで、 じっくりと距離を踏む時間がどうしても要る。

故障を防ぎ効率的なフォームを身につけるには、走動作を分解して部分的な動きにフォーカスした、動きづくりが必要になる。

でもね、それが一番退屈で、不安なんです。

去年、クラブを法人化して本格的に立ち上げたとき、 最初に来てくれたのは、ひとりの女の子でした。 半年近く、クラブ生は彼女だけ。 グラウンドには、私と彼女のふたりきり。

まわりの同級生たちが、インターバルトレーニングでガンガン走って、目に見えて記録を伸ばしていく。

そんなとき、私が彼女にやらせていたのは、 3年後、その先の高校生活を見据えた、 生活リズムの確立と、走りのベースづくりでした。

物足りなかったと思います。 小学生時代に同じクラブでライバルだった子がタイムを伸ばす中、自分は思うように伸びない歯痒さも、 きっとあったはずです。

「これでいいんだろうか」

「もっと、わかりやすく走らせたほうがいいのかな」

実は、不安で仕方がなかったのは、 コーチである私のほうでした。

早く結果を出して安心したいのは、マネジメントする大人のエゴです。

それでも彼女は、 「メンバーが増えたら、みんなで合宿に行きたい」と、 いつも前向きに、笑顔で練習に来てくれました。

秋が来て、少しずつ仲間が増えた。冬にはみんなで競い合うメニューも増やせるようになった。

そして、2年生になったこの春、 彼女は2週連続で、自己ベストを大きく更新したんです。

じわじわと、時間をかけて整えてきた土台から、 ちいさな芽が、一気に、力強く吹いた瞬間でした。

その走る姿を見ながら、 ああ、救われていたのは私だったんだなぁ、と ぽつりと思いました。

「大丈夫だよ、間違ってないよ」と、 言葉ではなく、その笑顔で、 私の背中をずっと押し続けてくれていたのは、 彼女のほうだったのかもしれません。

だとしたら。 毎月、お月謝をいただいているけれど、 本当に支払うべきなのは、 私のほうなのかもしれないな。

そんなことを思いながら、 今日もまた、彼女のタイムを読み上げています。

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