
マラソンシーズンが近づいてくると、走る人たちの間で、ある「呪文」みたいな言葉が聞こえはじめます。
「そろそろ、30キロ走やっておかないとやばいよね」って。
みんな、本当に真面目だなぁと思います。
フルマラソンという大きな目標に向かって、自分を試したくなる気持ちや、不安を打ち消したい気持ち、すごくよく分かるんです。
でもね、ふと思うんですよ。 「30キロ走」って、本当にみんなに必須なのかなぁ、って。
たとえば、月に走る全体の距離が100キロから150キロくらいの人を思い浮かべてみてください。
その人がたった1日で30キロを走るということは、1ヶ月の練習量の4分の1とか5分の1を、わずか数時間で一気に使い切ってしまうことになります。
これって、例えるなら、普段は軽めの食事で済ませている人が、突然大盛りのカツ丼とラーメンを無理して食べるようなものかもしれません。身体にとっては、想像以上のびっくり体験なんです。
スポーツ科学やトレーニング理論の世界には、LIT(低強度トレーニング)とHIT(高強度トレーニング)という分け方があります。ジョギングのようなゆったりしたLITと、息が上がるようなペース走などのHIT。
ニュージーランドの名コーチ、アーサー・リディアードは「最終的な結果は、有酸素運動による土台をどれだけ作れたかで決まる」と言いました。
でも、その「土台」となる月間走行距離が十分にできていないのに、いきなり30キロという巨大な負荷をかけるのは、トレーニングというより「破壊」になってしまうんです。
僕が練習会なんかでよく伝えるのは、「8割の余裕度」で終わらせること。 走り終わったあとに次の日も走る意欲があるかどうか?明日は完全オフにしようと思うくらいなら、それはやりすぎのサインです。
限界まで出し切るような30キロ走をしてしまうと、身体への負荷がどっさりと蓄積してしまいます。疲労が抜けないまま、動きが悪くなり、日々の走行距離も減ってしまいトータルではそんなに走行距離が増えていない。
本番を迎えるまでに、身体の芯にある疲労が抜けずどこか重さを感じて本番を迎える人もいる。
それって、すごくもったいないですよね。
トレーニングって、1回の「点」で効果を発揮するわけじゃないんです。 その日の練習と、その前後の練習が「線」で結ばれて、はじめて最大の効果を発揮します。
だから、1日で30キロをドカンと走って何日も休むくらいなら、週末に15キロを2日連続で走ってみる。
あるいは、短い距離をピリッと速く走ったあとに、1時間くらいゆっくりジョグをする(これ、脂質代謝が上がってスタミナ作りにすごくいいんです)。そうやって、ダメージを分散させながら「線」を描くほうが、よっぽどしなやかで強い身体をつくってくれます。
走るって、何か特別な儀式や1日限りの大勝負じゃなくて、毎日のごはんやお風呂の積み重ねみたいなものだと思うんです。
「30キロ走らなきゃいけない」という決まりなんて、どこにもありません。
自分のいまの走行距離のベースと、身体の素直な声。それを見つめながら、自分に合った「ちょうどいい準備」を重ねていくこと。
フルマラソンのスタートラインに立つときに一番必要なのは、「30キロを走り切ったぞ」というボロボロの勲章じゃなくて、「今日もなんだか楽しく走れそうだな」という元気な脚と、軽やかな心なんじゃないかなぁ。
ということで、今日もそれぞれのペースで、8割の余裕をもって、いってらっしゃい。
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